私たちカイラボは早期離職対策のコンサルティングサービスを提供しており、OJT制度の運用方法に関してもご相談いただくことが多くあります。
例えば、「うちの会社では新入社員に対して集合研修を2週間、OJTを2週間、その後GW明けから各部署に配属しています。OJTの期間は長いでしょうか?短いでしょうか?」といった内容です。
このようなOJTの期間に関する相談について、結論からお伝えすると、「OJT期間に正解はありません」。業種業態、新入社員に期待する成長や成果、どういった現場かなどにより適正な期間は変わるからです。
今回はOJTの「期間」にフォーカスし、長期と短期それぞれのメリット・デメリットをお伝えします。あなたの会社にとって適正なOJT期間を考える際に、ぜひ参考としてください。
新入社員のOJT期間はどのくらいの企業が多いのか?
「他社はOJTをどのくらいの期間行っているのか」と、気になる方もいると思います。OJTの期間については明確なデータがあるわけではありません。私たちが知る限りでもOJT期間は企業によって様々です。
短期間の場合「2日間〜1週間程度」といいう企業もあります。中には
「そもそもOJTを実施していない」 というケースもあります。
長期間の場合、1年近くに及びOJTを実施する企業があります。1年間の研修スケジュール例として、次のようなケースがあります。
4月 1ヶ月間の座学研修
5月 GW明けから色々な現場をジョブローテーション
6月 座学と現場でのジョブローテーションを交互に繰り返し
10月~ 「仮配属」という形で配属先でOJTを実施
翌年4月 正式配属
5月のジョブローテーションの期間も含めれば、ほぼ丸一年の期間がOJTとなっているケースもあります。私たちの感覚では、大企業ほどOJT期間が長くなる傾向があると思いますが、必ずしも「長ければ良い」わけではありません。
OJTが長いこと、短いことはそれぞれメリットとデメリットがあります。
まずはOJTが長期間の場合のメリット・デメリットをご紹介します。
OJT期間が長いことのメリット
どの程度のOJT期間が「長い」のか一概にはいえませんが、ここでは目安として「3ヶ月以上」のOJT期間を長いと設定した前提で聞いて頂ければと思います。
OJT期間が長いことのメリットは、やはり長い期間だからこそゆっくり着実に成長を支援していけることが大きいです。
例えば、OJT期間が短いなか、現場の先輩から「研修は終わったんだから力を発揮してよ」「なんでそんなこともできないんだ」と怒られる日々が続いた場合、新入社員には精神的・肉体的に非常に負荷がかかります。そうなると新入社員のモチベーションが低下し、場合によっては早期の離職につながる可能性もあります。
OJT期間を長く設定することで、「1~3ヶ月目ではこの程度まで、6ヶ月目にここまで成長すれば独り立ち」と計画的に少しずつ新入社員を育成させることが可能なのが特徴といえます。
OJT期間が長いことのデメリット
一方、OJT期間が長いことのデメリットとして、次の点が挙げられます。
・新入社員のモチベーションが下がり、だれてしまう
・研修終了後にギャップを感じ、負荷がかかる
詳細をご説明します。
1)新入社員のモチベーションが下がり、だれてしまう
新入社員研修を担当する講師のなかには、「企業は学校じゃないからね」といったフレーズを口にする方もいらっしゃいます。
しかし、OJT含め研修期間が長いと、新入社員としては会社に来ても仕事をしているとは感じられず「結局学校じゃん」という感覚が生まれてしまいます。そのため新入社員のモチベーションが緩み、いわゆる「だれてしまう」状態に陥るケースがよくあります。
2)研修終了後にギャップを感じ、負荷がかかる
気持ちがだれているなか研修が終わり、独り立ちし入社2年目となったあたりで、精神的・肉体的の負荷が突然上がったことに耐えられなくなってしまうケースがあります。学生から社会人になったときのギャップが大きいことで離職につながるという話しはよく耳にしますが、OJT期間が長い場合は社会人1年目から2年目の違いをギャップとして大きく感じやすくなってしまうことがデメリットとして挙げられます。
OJT期間が短いことのメリット
続いてOJT期間が短いことのメリット・デメリットをご紹介します。
OJT期間が短いことのメリットは、あらかじめ早い段階で戦力化・独り立ちすることが明確になっているため、プレッシャーを感じながらも新入社員は貪欲に業務に関する知識を学び、吸収していく可能性が挙げられます。
また企業規模があまり大きくない企業にとっても、OJTが短期間であることは、新入社員が1年目の早い段階で会社の利益に貢献することはメリットといえます。
OJT期間が短いことのデメリット
OJT期間が短いことのデメリットは、育成期間が短いことが原因で、企業・新入社員それぞれが問題を起こす可能性があるということです。
企業側は、育成を焦るあまり新入社員にパワハラ的な言動をしてしまったり、入社後まもない育成期間といえる段階にも関わらず短期的な目線でしか成果を追えなくなってしまうケースが考えられます。
新入社員は、OJT期間が短いなか企業から成果を求められることによるプレッシャーから、本来の企業の事業活動の目的から少し逸れてしまう形で活動する人がでてくる可能性が考えられます。実際にあった例では、営業部に配属された新入社員がプレッシャーや焦りからキャンペーンを実施し、短期的には売り上げを出したものの、その後クレームが連続して発生した事例もあります。
人材育成の課題から、自社に適したOJT期間を導きだす
ここまで、OJT期間には期間の長短に関わらずメリット・デメリットがそれぞれあることを解説してきました。
冒頭にもお伝えしたとおり、どの企業にも最適なただ一つのOJT期間というものはありません。企業ごとの適正なOJT期間は、以下の要素によって変わってくると私たちは考えています。
・扱っている商材、サービスの特徴
・配属先の部署の特徴
・新入社員にどのような役割を期待するのか
例えば扱っている商材、サービスの特徴でいえば、BtoB向けの企業ほど顧客との付き合いが深く、そして長くなるため、OJT期間も長期化する傾向があります。BtoC向けを扱っている企業の場合、成果が見えやすいことから、営業配属などはOJT期間が短くなる傾向があります。
私たちの経験上、新入社員の早期離職が続けて起こった企業は翌年からOJT期間を長期化させることが多いです。長期的にゆっくり育てれば学生から社会人へのギャップも減って早期離職も減るのではないか?と考えているわけです。
しかし、残念ながらただOJTを長期化するだけでは早期離職に対する効果は薄いでしょう。
OJTの期間を長くすべきか短くすべきか検討する前に、
「いま会社で抱えている人材育成の課題は何か?」
「課題を解決するためにはどうすればよいか?」
といった議題を社内でしっかりと議論することが重要です。
そのうえで、
「なぜ、OJT期間を変更するのか?」
「なぜ、新入社員は辞めてしまったのか?」
といったテーマに取り組みましょう。
繰り返しとなりますが、OJT期間には長期・短期それぞれにデメリットがあります。しっかりと課題を把握・確認をしたうえで、あなたの会社にとって適正なOJT期間を考えてみてください。