ゲスト紹介
長井 亮
株式会社アールナイン 代表取締役社長
国際キャリア・コンサルティング協会(ICCA) 代表
株式会社リクルートエージェント(現リクルートキャリア)を経て、ICCAを設立。
5,000人を超える就職・転職の相談実績を持ち、年100回以上、採用や定着に関する講演を行う。
インタビュアー紹介
井上 洋市朗
株式会社カイラボ 代表取締役
2008年 株式会社日本能率協会コンサルティングへ入社し、大手企業の業務改善などに従事。その後、社会人教育のベンチャー企業などを経て2012年3月に株式会社カイラボを設立。
2013年に新卒入社後3年以内で会社を辞めた早期離職者100人へのインタビューをまとめた「早期離職白書2013」を発行。
早期離職の実態と対策に関するコンサルティングのほか、セミナーや研修を全国で実施。現在は高校生や大学生向けのキャリア教育の授業にも登壇し、年間100件以上のセミナーや研修などを行っている。
350名のキャリアコンサルタントを活用して企業の採用・定着をサポート
井上: まずは長井さんのプロフィールを簡単にご紹介お願いします。
長井: あらためまして、株式会社アールナインの長井と申します。
当社では主に、「採用」や「社員定着」のための代行業務を実施しております。代行といっても、イメージがつかない方もいるかもしれませんので、簡単にご説明します。
現在、当社には約350名のキャリアコンサルティングのプロがいます。そのメンバーが色々な企業様にお伺いをして、採用や、1on1の代行などを行っています。
当社は、350名のプロをまとめるプロジェクトマネージャー的なポジションと営業を行っています。
井上: 350名の外部のパートナーの方がいらっしゃるということですが、その方々は皆さん何か資格を持っている方なのですか?
長井:
国家資格のキャリアコンサルタントの資格保有者に加えて、当社の別会社である国際キャリア・コンサルティング協会が発行している「キャリアスペシャリスト」という資格の有資格者・合格者を当社にご登録いただいています。
井上: ありがとうございます。長井さんご自身の経歴もお聞きしてもよろしいですか?
長井: 元々は、リクルートキャリア(当時はリクルートエイブリック)に新卒で入社しました。
IT業界を中心に支社の立ち上げや、立て直しなどを行わせて頂きました。途中リクルートに出向して、新規事業などを手掛け、その後2009年に株式会社アールナインを設立しました。
定着支援に携わる多くのコンサルタントを養成
井上: 採用と定着の代行をされているということですが、設立当初から同じ事業内容だったのですか?
長井: 元々、採用と定着の代行をやりたいと思っていました。
しかし、リクルートにいたこともあり、リクルートと直接競合するビジネスは良くないと思っていました。そのため、最初は私の実家の富山に戻り、人材教育や研修からスタートしました。
その後、2、3年してから、リクルートにも「新しく採用をやります」ということを伝え、仁義を通し、今の事業を始めました。
井上: 最初は富山で教育研修をやられていたんですね。定着支援のイメージが強かったので、少し意外な気がしました。今も教育研修の事業には力を入れていらっしゃるんですか?
長井: 当時の名残で事業としてはおこなっております。
しかし、メイン事業は採用や定着のため、そこに関連した教育研修が多くなっております。
キャリアコンサルティングとは意思決定支援
井上: 先程、キャリアコンサルタントの方が350名登録しているとお聞きしました。
キャリアコンサルタンティングって言葉としてはよく耳にしますが、「具体的にどんなことをしているのか?」がわかりにくい印象があります。また、人によってイメージしているキャリアコンサルタンティングが違うと思うのですが、アールナインさんとして実際に取り組んでいらっしゃるキャリアコンサルタンティングとはどういったものなのか、お聞かせいただけますか?
長井: 一言で言うと、意思決定支援です。
「キャリアコンサルティング」には、本当にいろんな定義があります。
その中で、われわれの中で定義しているのが「意思決定支援」ですね。
意思決定の場面は色々とあるかと思いますが、「自分一人でなかなか意思決定ができない」「誰かに背中を押してほしい」という方々に対して、我々がキャリアコンサルティングを通じて、背中を押してあげたり、意思決定をするときのアドバイスであったり、一歩踏み出せるようなご支援をさせて頂く事、と定義させていただいております。
社員のキャリア支援と定着率向上は両立できる
井上: 「意思決定において一歩踏み出す支援」というと、転職を後押ししたり、「辞めてもいいんだよ」といった後押しになってしまい、経営者や人事の方々からすると、「アールナインさんに頼むと社員に辞められちゃうんじゃないか?」と思う方が出てくる可能性はないんでしょうか?
その辺りはどのような考えで、実際、どんな風に意思決定支援を行っているのか教えていただけますか?
長井: 例えば、社員の方が辞めたいと思う場面では、多くの方々は「上司とのミスコミュニケーション」によって辞めたいと思うことがほとんどです。
そんなときは「上司の思惑と本人の捉え方が違う」、「コミュニケーションが不足している」、などのズレによって、部下の側に思い込みが多くなっています。
ですから、我々がキャリアコンサルティングをさせていただく上で、「(キャリアコンサルティングを受ける)本人が思っていること」や「会社からの期待は何か」を整理していきます。
そのうえで、本人に「会社からの期待はこうなっているけど、あなたはどう思いますか?」と投げかけます。
そうすると、多くの人は「自分の思い込みだった」もしくは「自分の言いたいことが伝わっていなかった」ということに気付きます。
その上で「じゃあ、どんな行動をすれば解消できるのか」について考えていきます。そうすると「では一度、上司に報告してみます」とか「もっと上司に踏み込んで聞いてみます」という話になっていきます。
これらが私たちの考える「意思決定支援」です。
井上: 辞める理由として、人間関係や上司との関係性が悪いという話はよく聞きます。
その原因は、情報が整理されていなかったり、お互いが悪いと思い込んでいたりということだと思うので、アールナインさんはその部分の情報整理をされているということなんだと思います。
例えば、部下からすると「上司から期待されていない」と思っているけど、上司は実は「結構期待している」と思っている。
しかし、そこがうまくかみ合っていないので部下は「辞めてやる」と思っている。そこで間にキャリアコンサルタントの方が入って「そんなことはないんだよ」と情報を整理して伝えてあげると、「ああ、じゃあうちの会社で頑張ってみようかな」と意識が変化していくということですね。
意思決定を支援しつつ、ときに導くことも必要なキャリアコンサルタント
井上: これは半分、興味本位なんですけど、一般的な国家資格のキャリアコンサルタントと、長井さんがおっしゃったキャリアコンサルティングでは、重なる部分もあるは思いますが、異なる部分もあるのでしょうか?
長井: 最近、国家資格のキャリアコンサルティングも以前とはだいぶ変わってきているのですが、
ちょっと言葉が誤解を招くかもしれない表現をすると「うまく導いていく」という点は我々と明らかに違う部分です。
例えば、本人が答えを持っている前提に立った場合、答えを引き出すのであれば、「本人が一歩踏み出す」部分まではサポートしきれない可能性があります。
また、本人が答えを持ってない場合、納得感のないよく分からない答えになってしまうということもあります。
我々は第三者として情報の整理をさせていただくことで、「本人が一歩踏み出す」方向へちゃんとうまく導いてあげる点が特徴です。
変に誘導するという意味ではなく、いい方向にどう先導してあげられるかという事です。
その部分が大きい違いではないかと思います。
井上: まさに今仰っていただいた部分で私自身思うところがあります。
リクルートさんでいうと、「Will・
Can・ Must」という考え方があると思うのですが、「Willがない」とか「本人も気付けてない」とか「Willが極めて小さい」という場合に「あなたはどう思うの?」と聞く質問をしてしまい「傾聴をしても答えが出てこない」と感じている方は多い気がします。
最近の若者に対するキャリア支援の第一歩は「話しを聞く」こと
井上: 管理職向けの研修に登壇していると、管理職の方から「最近の若い人のモチベーションが分からない」という相談をよく受けます。
アールナインさんの場合、そのようなケースでもうまく社員の方を導いていただいて、定着につなげていけるということですね。
長井: そうですね。
今の若い方々は、我々が面談させて頂いていて、「話を聞いてもらえていない」という悩みが多く聞かれます。
そのようなケースでは、私たちはガス抜きではないんですが、上司の代わりに話をしっかり傾聴することで本人が「楽になる」ということはあります。
若手社員からすると、思っていることを上司が受け止めてくれない、説教される、話を聞いてほしいのに「いや、それってこうなんだよ」と解決策を提示されてしまうなど、話を聞いてもらえない状況があります。
そういった中で、しっかり傾聴してあげるというのも、我々の一つの価値かなと思っています
また、うまく導いてあげるためにも、過去の「楽しい体験」や「すごくやりがいを感じた体験」を聞き出しながら、「その先にどんな世界が待っている?」のかについて一緒に考えてあげるようなキャリアコンサルティングを行っています。
キャリア経験の浅い、入社1年目〜3年目の社員へキャリア支援 キーワードは「没頭したこと」
井上: 私たちカイラボは若い方を対象にしたキャリア支援、早期離職対策、定着率向上を行っているのですが、年代によって定着支援のアプローチは変わってくるのでしょうか?
例えばですが、30代の方であれば、入社してから10年ぐらいのキャリアがあるので、自身の大切にしている価値観なども聞きやすいと思うのですが、新卒1~3年目ぐらいの方に対してのアプローチはどうしているのでしょうか?
長井: 例えば、「これまでの学生生活の中で楽しかったこと」と聞くと、大抵の方は出てくると思います。
それが出てこないときは「例えば没頭していること」「すごくはまったこと」などを聞くと、出てくることは多いかと思います。
そこから「なぜ没頭できたのか」、「なぜはまったのか」、「そこで何を楽しみとして見出したのか」「どんな行為が良かったのか」という形で深く質問していくと、一定の傾向値が出てきます。
その傾向値が掴めると、それがキャリアコンサルティングのヒントになっていきますね。
井上: 傾向値というお話ですが、「過去を振り返る」場合、方法としてアセスメントのような形で質問に回答してもらい「あなたは何とかタイプ」と分類するやり方もあると思うのですが、元々タイプ分類が用意されているものに分けていくのではないんですね。
長井: 型に当てはめる分類ではないですね。
人生100年時代の課題 ミドル・シニア層のキャリア支援では「実績の尊重」が肝心
井上: ちょっと言葉は悪いんですけども、「ミドル・シニアの再生」といった文脈で「50代の方々がだぶついてしまっている」、「会社からすると、払っている人件費に対して本人のパフォーマンスが明らかに上がっていないが日本の雇用制度上、お給料を一気に下げるのも難しい」、「ミドル・シニア層の方々にパフォーマンスを発揮してもらわないと、会社が持たない」といった話も耳にします。
そういった中で、我々もいろいろな支援のサポートをさせて頂いているのですが、ミドル・シニア層の方々に対するキャリアのコンサルティング支援になると、どういったところがポイントになるんでしょうか。
長井: 基本的な概念は、1~3年目の若手社員と変わりません。
しかし、アプローチの仕方が少し変わってきます。
やはりミドル・シニアの方はある程度経験があったり、実績をお持ちの方が多いですから、そういった部分は尊重してお話を聞かせて頂いております。
そうすると、本人も「得意だったこと」、「自慢気に喋りたいこと」、「誇りを持っていること」がたくさん出てきます。
そのうえで、「じゃあ、それは具体的にどんなことをやっていたことが楽しかったのか」、また「それは、どういう関わりをすることで、生き生きと輝けたのか」ということを聞き出していくと、徐々に傾向値が見えてきます。
シニアの方自身が現状の認識と先々を見据えた中で「どうすればこれからも輝けるのか」を一緒に考えていく。そんなイメージですね。
井上: やっぱりミドル・シニアの方だと、プライドが傷ついたり、自尊心が傷つけられてしまい、頑なになってしまう方もいるので、今までのことをきちんと認めた上で、どうしていきましょうかというアプローチになるんですね。
ミドル・シニアの場合には、現在、過去、未来でいくと、過去を深掘りして、未来につなげていく。
若年者の方だと、過去も当然聞くんですけど、最初に現状の整理を大切にしながら未来につなげていくというようなイメージでしょうか?
長井: はい、その通りです。
人によって求めているキャリア支援の形は様々だからこそ、キャリア支援も様々なタイプがあって良い
井上: 350名のプロのキャリアコンサルタントの方を抱えていらっしゃいますが、「こういう方にキャリコンサルタントをやってほしい」という資質のようなものはありますか?「資格を取ってほしい」というよりも、「アールナインさんとして一緒に働きたいのはこういう方だ」というような、素養とか、元々持っているスキルなどがあれば教えて頂けますか?
長井: 当社に寄せられる案件というのは、採用や定着に関わる事になります。
そのため、「情報提供者」ではなく、「ちゃんと相手のことを聞いた上で、咀嚼して返してあげる」ことが必要になってきます。
ですから、傾聴と情報提供のバランスが大切です。傾聴と情報提供の割合をちゃんと考えられるる方が求められる人材ということになると思います。
これは多分、時代によっても変わってくると思いますし、案件によっても変わってくると思いますが、今現在では「傾聴が7」、「情報提供が3」ぐらいのイメージです。このバランスを厭わずにやれるという方が向いていると思いますね。
人によっては、情報提供がすごく得意な方もいたり、傾聴が得意な方もいらっしゃいます。
でも7:3の割合でやってくださいとお願いしたときに実際にできる方、その割合でやることが心地良いと感じる方が向いていると思います。
井上:
「聞くのが7」で、「情報提供が3」ということなんですね。
実際に認定講座などを受けに来る方だと、傾聴が得意な方と、情報提供が得意な方はどちらが多いのでしょうか?
長井:
これも二極化していますね。
ビジネスサイドで活躍されている方は、情報提供が9だったり8だったりすることが多く、逆にカウンセラーをやっている方は、傾聴が9だったりすることが多いので、実際に当社でお仕事をやっていただいた際にも、そこに戸惑われる方が多いです。
情報提供を続けてきた方は、聞くよりも情報提供が先になってしまいますし、逆にカウンセラーの方は、聞くことばっかりになってしまい、導くということが苦手な方もいらっしゃると思います。このバランス感が非常に難しいですね。
傾聴だけしていてもキャリア支援はできない 情報提供とのバランスが大切
井上: 傾聴と情報提供のバランスの問題は、現場の管理職でも起きていそうですね。
例えば、リクルートさんみたいに営業文化が強い企業だと情報提供が得意な方が多いですが、バックオフィス系やIT企業だと傾聴が得意な方も多くいます。でも逆に傾聴に寄り過ぎてしまい、「聞いてくれたのはいいんですけど、相談が解決になっていない」という状態が現場ではよく起きているなと思っています。
7対3って絶妙なバランスですし、難しいポイントですね。
傾聴が9の方に対しては、どのようにしてもらうと7対3ぐらいに、いい塩梅になるのですか?
長井: 難しいですね。
その本人が傾聴9の状態が心地よいと思っていると、なかなか変革するのが難しいです。
逆に言うと、傾聴が9の方には、「ガス抜きをするような案件」をお願いするケースが多いです。
本人が傾聴だけでなく情報提供も含めたキャリア支援がしたいと思っているのであれば、当社の提供している講座を受けていただくケースもあります。
井上: ガス抜きだと、「とりあえず聞いてくれる人」というのが相手にとっても大事なので、スキルに案件を合わせていく形ですね。
逆に情報提供が得意なタイプの方はどうされているんですか?
長井: 案件としては、「その企業の文化とか風土を伝える」といった場面もあります。
例えば、中小企業さんで「理念を作ったけれども、浸透しない」という場面では、情報提供者の方が面談をするときに、本人の言ったことに対して、「この理念はこういうことだよね」と返す形で情報提供をするんですね。
こうして何度も理念を噛み砕いて何度も伝えていくうちに、面談されている側は、「ああ、何となくうちの会社ってこうだな」と思っていくようになります。
そういう場面では、情報提供が得意な方というのは向いていますね。
井上: 350人は様々な方がいらっしゃるので、350人を画一的に7対3のバランスはなく、理想としては7対3のバランスがあるけれど、案件によってそれぞれの得意領域も違ってくるし、向いている必要なスキルというのも変わってくるので、その人の特徴に案件を合わせていっている感じなのでしょうか?
長井: そうですね。おっしゃるとおりです。
多様性な働き方の時代だからこそキャリア支援のあり方もやり方も多様に
井上: 「会社としてこうじゃなきゃ」、「こうあらねばならない」というのを強制するというよりは、それぞれの皆さんが心地よい状況に合わせて仕事をうまくアサインしていくというのをやっていらっしゃるということですよね。
長井: そうですね。
いわゆるプロジェクトのポートフォリオの最適化みたいな認識でしょうかね。
それぞれの得意領域をうまく組み合わせをしながら、ちゃんと補完していくようなことをやっている感じですね。
井上: 先日お伺いした時は、現在350名いらっしゃって、さらに人数を増やしていく方向で頑張っていたけれども、質の担保のために増加を抑え、講座の開催自体も減らしていると仰っていました。今後の展開はどのように考えていらっしゃるんですか。
長井: 今、評価の仕組みを作っております。
実際に面談を実施したコンサルタントに対してお客さまからご評価いただく。そういった評価を元に改善していくことを今取り入れようとしています。
評価の仕組みができれば、あとはコンサルタントの数を増やせばいいという話になると思いますので、まずは1年ぐらいかけてじっくり仕組みを作り上げていって、その後に人数を増やそうと思っています。
(後編へ続く)