私たちカイラボでは、3年に一度、「早期離職白書」を発行しています。この白書は早期離職された方へのインタビューやアンケートをまとめたデータ集です。
早期離職白書のインタビューに答えていただいた方のなかには、インタビューから数年経った現在、ベンチャー企業で役員をつとめているケースもあります。
先日公開した記事「ベンチャー企業の優秀な社員が辞める3つの兆候とその対策」では、役員になるほどの優秀な社員に離職されることを防ぐポイントとして、次ような内容をご紹介しました。
・早期離職にいたるまでには「きっかけ」と「決め手」がある
・辞める決断をされる前に、辞めたいと思うきっかけを早く察知する
・離職対策を講じるためにも、日常的な信頼関係作りが大切
今回の記事では優秀な社員の離職の予防に関して、より具体的な対策方法を紹介します。
優秀な社員が辞めるときの3つの兆候
早期離職を防ぐには辞めたいと思った「きっかけ」がきてしまったことをいち早く察知することが大切です。私たちがこれまでインタビューを行ってきた中で見えてきた、優秀な社員が辞める3つの兆候をご紹介します。
- 以前と比べてパフォーマンスが落ちてきた
- 急激にパフォーマンスが上がった
- 将来の展望を周囲に話さなくなった
各項目の詳細は先ほどもご紹介した「ベンチャー企業の優秀な社員が辞める3つの兆候とその対策」の記事内で説明していますので、詳細は是非そちらをご覧ください。
これら3つの兆候がみえたとき、上司や周囲はどんな対策をとればいいのかをご紹介していきます。
優秀な社員に辞めそうな兆候があったときの5つの対策
優秀な社員が辞めそうな兆候があった場合、つぎの5つの対策方法があります。
・インフォーマルな場でのコミュニケーションと、本音の引き出し
・間接的な情報収集
・間接的に褒める
・日常的な信頼関係作り
・ポジティブ離職による送り出し
それぞれの項目について、具体的な内容を紹介します。
対策1 インフォーマルな場でのコミュニケーションと、本音の引き出し
インフォーマルとは「非公式の場」を意味します。会社としての公式的な場ではない日常的な機会でコミュニケーションをとり、社員の本音を引き出します。
会社のフォーマル(=公式的)な場というと半期に一度ある評価面談や1on1ミーティングなども含みます。そういった場で社員の考えを引き出そうとすると、社員側は「賞与や評価に関わるのではないか」などと思ってしまうため、本音を引き出すのは難しくなります。
優秀な社員が辞める前に見られる兆候である成績やパフォーマンスの落ち込み、また急激な成績アップが見られた場合には、ランチや飲み会といったインフォーマルな場でコミュニケーションの機会に、「最近どう?」「仕事のコツつかんだ?」「ちょっと心配だよ」などの投げかけを行い、本音を引き出してみましょう。
しかし、この対策方法を行うには、当然ながら普段から社員との間に信頼関係が不可欠です。日頃のコミュニケーションが不足してるのに、突然ランチや飲み会に誘われても警戒されますし、場合によっては迷惑がられることもあることは覚えておきましょう。
対策2 間接的な情報収集
優秀な社員の同期や仲の良い同僚から情報を集める方法です。
人間ですからどうしても相性の問題があり、優秀な社員との信頼関係作りがうまくできない場合もあるでしょう。また、上司が異動してきたばかりで、信頼関係をつくる時間がなかったというケースもあると思います。
そのような事情から、対策1「インフォーマルな場でのコミュニケーションと、本音の引き出し」が実施が難しい状況であれば、自分がコミュニケーションをとりやすく、またその優秀な社員をよく知っている同期社員や仲の良い先輩・後輩社員から、「◯◯さん、最近どうしたんだろうね」と、間接的に情報を収集していくことが有効です。
対策3 間接的に褒める
「ウィンザー効果」と呼ばれる心理効果を活用する方法です。
ウィンザー効果とは、「間接的に情報を伝えることで、直接伝えるよりも、さらに効果を増加させる効果」を指します。
例えば、誰かから直接褒められるよりも、「あの××部長が、◯◯さんのことすごい認めてたよ」と言ってもらった方が、より強い高揚感や嬉しいという気持ちを感じることが心理学の実験で認められています。
このウィンザー効果を活用して、優秀な社員の方を直接褒めるのでなく、「最近の◯◯さん、成績上がってすごいよね。本当に関心するよ」といった賞賛する内容を、職場の他の方々を経由して伝えてみましょう。
対策4 日常的な信頼関係作り
これまで紹介した3つの対策方法、
・インフォーマルな場でのコミュニケーションと、本音の引き出し
・間接的な情報収集
・間接的に褒める
を実行するため必要になるのが、日頃からの信頼関係作りです。信頼関係の作り方には2つのポイントがあります。
1つは「コミュニケーションの頻度」です。
コミュニケーションは、総時間よりも頻度が大切です。例えば、2時間の飲み会が1度あったとしても、その場で交流した人のことも数ヶ月後には忘れてしまうかもしれません。
一方、FacebookやTwitterなどオンライン上であっても毎日やりとりをしたり投稿を見続けていると、なんとなく親近感が湧き、実際に会うのが1年ぶりであってもあまり久しぶりに感じないという経験をしたことはありませんか?
コミュニケーションは総時間よりも頻度が大切です。何度も顔を合わせているうちに自然と親近感が湧くと言われています。一日5分から10分でいいので毎日コミュニケーションをとることを意識しましょう。ただし、注意が必要なのは一方的に話しかけることはコミュニケーションではないということです。一方的な報告、声掛けではなく、相互の意思疎通の時間を5分でも10分でも確保しましょう。
2つ目は、「自己開示」です。
信頼関係を築きたい相手に対して、本音の感情・情報をオープンにしてあげることが大切です。
例えば「正直、自分も20代のときに少し転職活動していたんだよね」「自分も会社に対して、こういう改善提案をしたいと考えているんだよね」など、自分の経験と相手の状況をリンクさせるような発言です。
情報を引き出すことばかりに意識が向いて、聞こう聞こうと躍起になるのでなく、進んで自分の情報を伝える姿勢を忘れないようにしましょう。
5.ポジティブ離職による送り出し
最後に紹介するのは、直接的な離職対策ではありませんが、ポジティブ離職になるように快く送り出す方法です。「ポジティブ離職」とは私たちが呼んでいる離職のタイプのひとつで、離職者が会社に対して良い感情を抱いて離職する場合を指します。
優秀な社員は、例え転職の意思がなくとも、ヘッドハンティングや引き抜きなど外部の企業からオファーがかかるということがあります。また、自社の業務内容や職場環境が素晴らしく、離職に繋がるような問題が無かったとしても、自分の将来のキャリアプランを考えた結果、「次はこのステップへ進みたい」「こんなチャンスはなかなか無いから転職したい」という想いを抱いて転職を決意する場合もあります。そして、ひとたび転職市場に出れば優秀ゆえに引く手あまたの人材となります。
そのような状況では、どういった離職対策を打ったとしても自社に引き止めるのが難しいケースとなります。その際には、ポジティブに辞めてもらうよう働きかける方法をとりましょう。
ポジティブ離職してもらう方法としては、離職時にしっかりと送別会を開き、離職後も定期的なコミュニケーションを取り続けることがポイントです。最近では「アルムナイ」と呼ばれる自社離職者のコミュニティを作り、アルムナイのなかで維持した関係性から、いわゆる出戻り社員として再雇用へと活用する企業も多くあります。
ポジティブ離職によるメリットには、離職後も定期的なコミュニケーションによる繋がりが維持されるので、何かのタイミングで戻ってきてもらう、もしくは人を紹介してもらうということが可能になる点です。
優秀な社員の定着につなげるには順序が大切
ここまで優秀な社員を辞めさせない対策方法を5つ紹介しましたが、手法としては、社員個人へのコミュニケーションによる働きかけです。しかし、優秀な社員もひとりの人間ですので、全人格的に素晴らしく、敵を作らない・合わない人がまったくいないということは無いと思います。
「上司やチームメンバーとの関係性が悪い」「本音を話せる人物が限られている」など、対策を講じようにも難しい場合には、会社の仕組みや制度に対して切り込んでいく必要があるかもしれません。
しかし、はじめから優秀な社員を引き止められないのは社内の仕組みや制度がネックとなっているからと決めつけるのではなく、今回紹介した対策方法を参考にどうすれば離職を防げるのか考えてみてください。
それでも優秀な社員の方に定着してもらうのが難しい場合には、社内の改善・改革に切り込んでいく。このような順番で、優秀な社員の定着に繋がるような施策を実施してみてください。