本記事は2017年発表のデータをまとめたものです。2019年秋発表の早期離職率に関する情報は下記の記事をご覧ください。
9月15日に厚生労働省が新卒大卒者の離職状況を発表しました。毎年秋に発表されるこのデータは「若者は3年以内に3割辞める」と言われる根 拠でもあります。
最新の発表では平成26年3月に大学を卒業し、就職した人のうち3年以内離職率は32.3%です。この水準が高いか低いかというと「ほぼ例年並み」の水準です。厚生労働省は昭和62年3月卒業の新卒大卒者から同様のデータを発表していますが、バブル期以降はほぼ30%前後で推移しています。
「最近の若い人」よりも氷河期世代の方が離職率は高かった
厚生労働省が発表初めて以降、3年以内離職率が最も高かったのは平成16年(2004年)3月卒業者で36.6%、次いで平成12年(2000年)3月卒業者で36.5%となっています。平成12年~平成17年頃は約35%で推移しており、今よりも若干高い水準でした。
たまに「最近の若い人は根性がないからすぐに辞めるんだ」という方がいますが、もしその理屈が正しければ現在の35歳~40歳くらいの方々がもっとも根性なしということになります。この世代の方々は就職氷河期でもありますね。氷河期だったうえに、「根性がない」とまで言われたらさすがにかわいそうですね。
また、このデータからは「ゆとり教育のせいですぐ辞めるようになった」という因果関係は見出せません。一般的にゆとり世代と言われる年代が大学を卒業したのは平成22年以降ですが、平成22年以降に急激に3年以内離職率が高くなったかというと、そんなことはありません。先にもお伝えした通り、現在の30代後半の方々の方が3年以内離職率は高い傾向があります。
今回の発表資料の中で厚生労働省も明言していますが、「就職率が低い時に卒業した者の3年以内離職率は高くなる傾向がある」のです。根性やゆとり教育が原因ではありません。
厚生労働省発表資料より
「大企業に入っても3年以内に3割辞める」はウソ
数年前、高校生大学生のキャリア教育支援・中退予防支援をしている団体の代表者の方がTwitterで「大企業に入っても3割が3年以内に辞めるんだから、大企業に入ったら安泰なんて考えは捨てて、中小企業にも目を向けるべきだ」というようなこと(正確な発言はうろ覚えです)を書いていました。
「中小企業にも目を向けよう」という主張は賛同できるのですが、「大企業に入っても3年以内に3割辞める」というのはウソです。
厚生労働省は3年以内の離職率について事業所規模別での集計も発表しています。事業所規模であって企業規模ではないので、正確には大企業か中小企業かの定義とは少しずれますが、傾向を把握することはできます。
1000人以上の事業所では24.3%に対して、5人未満では59.1%と大きな差が出ています。100名未満の事業所はすべて全体平均よりも3年以内離職率が高い結果となっています。
中小企業の魅力は数多くありますが、少なくとも3年以内離職率という点においては大企業に軍配が上がりそうです。
業界格差も激しい3年以内離職率。50%超の業界も
3年以内離職率は業種によっても大きな差があります。
宿泊業・飲食サービス業は3年以内離職が50%を超えている一方で、電気ガス供給などのインフラ系の業種では9.7%と全体平均と比較して非常に低い水準になっています。
飲食業はここ数年、3年以内離職が毎年50%を超え、毎年業種別の1位を維持しています。弊社のお客さまでも飲食チェーンの会社があり、様々な工夫をして3年以内離職が30%程度までは下がってきたものの、他の業種に比べるとまだまだ高い傾向にあるのは事実です。
「3年以内に辞める=けしからん」という思考停止からの脱却
私が早期離職白書をはじめてつくったのが2013年。そのとき、応援の言葉と同じくらいいただたのが「3年で辞めるのが悪いことだと思わない」という言葉です。
新卒入社3年以内で辞めるの良いことなのか悪いことなのか、その判断はケースバイケースであり、私にも一様に判断することはできません。
私自身も新卒で入った会社を2年足らずで辞めました。そのときの判断が正しかったのかどうか、今でもわかりません。ただ、あのタイミングで辞めていなければ今の自分はなかったということだけでは事実だと思います。
「3年以内の離職は悪いものだからなくすべき」という一方的な意見ではなく、なぜ辞めるのか、辞めることは会社にとって本人にとって有益なものなのか不幸なものなのか、防ぐことはできたのか、そもそも防ぐべきなのかといった多様な観点から議論が必要です。
「うちの会社を3年以内で辞めた元社員は全員が今は幸せです」と言い切れる会社があるのであれば、私は良いと思います。でも、現実にそんな会社はほぼありません。
早期離職者のメンタルダウンの比率は高い
私が早期離職白書をつくるためのインタビューをしたとき、うつ病になったエピソードを数多く聞きました。100人にインタビューをして、うつ病などのなんらかのメンタル面の不調を抱えた方が22名。明確にうつ病と診断されたという方も10名以上いました。
日本人のうつ病の有病率が5%~6%程度ということを考えると、100人中22人は多いと思います。
早期離職対策は目的ではなく、企業が良くなるための一つの手段
早期離職防止コンサルティングという聞いたことのないサービスを掲げた当初そんなの意味がない」と言われることも多くありました。あれから5年が経ち、明らかに社会の雰囲気が変わってきたと感じています社員を大切にする会社、社員が定着する会社の重要性が広く認識されてきまし
た。
早期離職対策は会社が良くなっていくための一つの過程です。「3年以内離職率が30%が20%になった」ということよりも、その過程で起きた変化の方が大切です。コミュニケーションの量が増えた、仕事の任せ方が変わった、マニュアルができたなどの変化です。
おそらく、厚生労働省が発表する3年以内離職率は数字上は今後も大きな変化はないと思います。数字の変化はなくても「辞める理由」などが変わっていけば、会社が良くなる、社会が良くなることは可能です。そのための一つの方法としてこれからも早期離職対策をさらに良いものにしてお客さまに提供していきます。