厚生労働省から「新規学卒者の離職状況に関する資料一覧」が発表されました。
「最近の若者は3年で3割が辞める」と言われてすでに20年近く経っているのですが、今年も報道は「大卒者の3割が3年で辞めています」とか「3年以内離職率が昨年よりも上昇」という伝え方しかしていません。
私はセミナーや講演などで何度も「最近の若者が3年で3割辞めるのは事実ですが、最近になって3割辞めているわけではありません。昔から3年で3割という水準は多少の上下動はありますが大きく変わっていません」と言っていますが、まだまだ「最近の若い人は根性がないからすぐ辞める」という誤解をしている方も多いように感じます。
最新の大卒新卒者(2011年3月卒業者)の3年以内離職率は32.4%と昨年よりも1.4ポイント上昇しており、2年連続の上昇です。ただし、一昨年の28.8%という数字は1995年以降最も低い水準であり、今年の32.4%に関しても2000年以降では5番目に低い水準です。2000年代前半には35%を超えるのが当たり前となっていた時期もあるため、過去のデータと比べて今年が突出高いということはできません。
厚生労働省は一昨年から3年以内離職率に関して、産業別や従業員数別でのデータも公表しています。
昨年は従業員数別のデータをもとに「『大企業に入っても3年以内に3割辞める』は大嘘」という記事を書いたこともありました。
今回は産業別での3年以内離職率について考えてみます。産業別の離職率の順位は以下の通りです。(かっこ内は昨年順位と3年以内離職率)
1位 宿泊業・飲食サービス業 52.3% (1位 51.0%)
2位 生活関連サービス業・娯楽業 48.6% (3位 45.4%)
3位 教育・学習支援業 48.5% (2位 48.9%)
※産業分類の「その他」を除いた場合の順位
上位3つの顔ぶれに変化はありません。
宿泊業・飲食サービス業は2年連続で唯一の50%越えですが、全体平均が1.4ポイント上昇していることを考えれば、宿泊・飲食サービス業だけが今年になって急激に人が辞めているわけではありません。
一方で生活関連サービス業・娯楽業は3.2ポイントの上昇なので、平均に比べると3年以内離職率の上昇幅が大きいということになります。ちなみに、生活関連サービス業・娯楽業というのは具体的には、美容室(理容室)、パチンコ、旅行業、ゴルフ場、カラオケ、エステ、フィットネスなどの仕事です。
また、昨年のデータでは唯一3年以内離職率が1桁台(大分類集計の場合)だった「電気・ガス・熱供給・水道業」が今年は10.6%と昨年に比べて1.8ポイント上昇しています。
全体平均は上昇しているものの、3年以内離職率が下がった業界もあります。
「不動産業・物品賃貸業」です。昨年の39.6%から38.2ポイントにわずかですが下がっています。昨年によりも下がったのはほかに「鉱業・採石業・砂利採取業」のみでした。
業界別に見てみると、単純に「3年で3割」ではないことがわかります。特に、経年で比較してみると変化を読み取ることも可能です。
例えば、情報通信業は昨年に比べると上昇しているものの、全体平均では95年以降最低水準だった一昨年よりも今年の方が3年以内離職率は低くなっています。なぜだろうと思ってデータを見てみると、情報通信業の新規就職者数は2009年卒に比べて2011年卒では1万人以上も減っています。採用を厳選するようになったのか、離職率が高い会社はリーマンショックの余波で潰れたのか、様々な仮説がたてられそうです。
データにすべての答えが載っているわけではありません。そして、データが真実であるとも限りません。
しかし「最近の若者が3年で3割辞める」という情報だけに流されて、自分で根拠となるデータも見ないで決めつけてしまうというのは不幸なことのような気がします。
データで全体像の予測を立てて、真実は自分の目で確かめてみてください。