未来人材ビジョンは、経済産業省から今後の人材育成への方向性とその具体策について示されたものです。
2050年までに、日本の産業構造は今から大きく転換していくと考えられています。この転換を踏まえたこれからの人材政策を検討するため、2022年5月に未来人材会議が設置されました。そこで提言として意見をまとめられたのが、未来人材ビジョンです。
この記事では、未来人材ビジョンについてのポイントをご紹介します。
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未来人材ビジョンは、経済産業省から今後の人材育成への方向性とその具体策について示されたものです。
2050年までに、日本の産業構造は今から大きく転換していくと考えられています。この転換を踏まえたこれからの人材政策を検討するため、2022年5月に未来人材会議が設置されました。そこで提言として意見をまとめられたのが、未来人材ビジョンです。
この記事では、未来人材ビジョンについてのポイントをご紹介します。
未来人材ビジョンは、経済産業省が設置した「未来人材会議」を経て2022年5月に発表されました。
未来人材ビジョンには、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取り組むべき具体策が示されています。(気になる方は是非「未来人材ビジョン」で検索して経済産業省のサイトをチェックしてみてください!)
この記事では、未来人材ビジョンから一部を抜粋してご紹介します。
(この記事の内容は、こちらの動画でも解説しています。)
未来人材ビジョンでは、これからの世代に求められている意識と行動について、次の4点が挙げられています。
どれも重要ですが、大きなキーワードになるのは「ゼロからイチを生み出す」「夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢」という点だと思います。
この二つんのキーワードから、未来の人材に求められているのはいわゆるスペシャリストであるということがわかります。
いろんな事を知っているジェネラリストよりも一つの事柄を掘り下げていったうえで、ゼロからイチをつくりあげることが求められているのではないでしょうか。
グローバルな社会課題や多様性を受容というキーワードも、様々な分野のプロフェッショナルが集まり、国や地域に関係なく課題解決をしていく姿がイメージされているのだと思います。
また未来育成ビジョンの中では、2015年と2050年では仕事で求められる能力がどのように変化していくかが示されています。
2015年において、仕事で求められる能力の上位3つは次のようになります。
注意深くミスがないので正確な仕事ができるということや、責任感があり真面目に仕事へ取り組んだ結果として成果を得て信頼されること、また周りの人に誠実さを感じてもらうことなど、これらはどれも大事なことです。
一方、2050年に求められるようになるのは次の3つの能力だといわれています。
与えられた問題を解決していく能力ではなく、自分から問題を発見していく能力が大切になっていくということを示しているのだと思います。
問題を発見していくためには、今後社会がどうなっていくのかを予想していく必要があります。確実な未来を予想することは難しくても、様々な情報からできる限り具体的かつ高確率で起きる未来を予想し、課題を未然に発見して解決していく。そんなことが求められるのが2050年ということです。
また、課題解決においては、今までの延長のような”改善”ではなく”革新性”、いわゆるイノベーションが必要になってくるという考えから、この3つの能力が挙げらたのではないかと思います。
今から2050年までは、まだ時間があります。今が2022年。2015年から2050年に向けた35年間での変化における過渡期にあるのが、ちょうど今のタイミングなのではないでしょうか。
未来人材ビジョンでは、これから進むべき方向性がどういうものなのかについても示されています。
この記事を読んでいる方の多くは、企業の人事担当や経営に携わっている方だと思います。。そういった方々に大きく影響してくるのが「旧来の日本型雇用システムからの転換」です。
旧来の日本型雇用システムとしてよく例として挙げられるものに新卒の一括採用や年功序列、企業内労働組合などがあります。これらは日本企業の強みの源泉と言われた時期もありましたが、次の時代に向けて変化が求められています。
実際、新卒一括採用については、大手企業を中心に優秀な人材には1000万円の年収を提示するなど、入社時から大きな差をつけるケースも出てきています。
もう一つの「夢中になれる教育への転換」については、会社内での教育だけでなく学校教育も含めての言及だと思います。
個人的には、好き嫌い関係なく広く学んでいくことも大切ですし、好きなことを突き詰めるためには、他のことも広く見ておいた方がいいと思います。ただ、順序としてまずは好きなことを突き詰めていきましょうということなのではないかと思います。苦手をなくすのではなく得意を伸ばす教育の必要性がよく聞かれるのも、同じ考え方ではないでしょうか。
旧来の日本型雇用システムからの転換についてもう少し具体的に考えてみましょう。
未来人材ビジョンの中から提言を抜粋すると、次のような記述があります。
人的資本経営を推進することで、働き手と組織の関係を、閉鎖的な関係から、「選び、選ばれる関係」へと、変化させていくこと(中略)多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、失敗してもまたやり直せる社会。
経済産業省 未来人材ビジョンより
これはある意味、企業側と個人側がもっとフラットな関係になっていくということかもしれません。
未来人材ビジョンでは、未来人材会議のメンバーの方、つまり専門家や事業者の方々がこのような方向に進んでいくのが大切だと提言しているのが興味深い点です。
もう一つの方向性である、好きなことに夢中になれる教育への転換というのはどういうことでしょうか。
未来人材ビジョンでは次のような記述があります。
一律・一斉で画一的な知識を詰め込むという考えを改め、(中略)子どもたちが好きなことに繰り返し挑戦したくなる機会を増やしていく。
経済産業省 未来人材ビジョンより
大きい教室で全員同じ教科書を使って同じことを勉強するのではなく、一人ひとりの好きなことを繰り返し挑戦していきたいと思える機会を増やしていくのが大事ということではないでしょうか。
未来人材ビジョンは、企業の人材育成や採用への活用だけではなく、学校教育にも言及されており、学校教育と企業における雇用のあり方や人材活用の仕方のどちらにも触れられているのが特徴です。
どちらも、現場から大きく転換していく必要があります。今までの延長線上における変化ではなく、もっと大きな変化が求められているというのがポイントです。
未来人材ビジョンは経済産業省が発表しているため、ただ発表しただけで終わるということはないと考えられます。おそらく、政府から企業に対して求めるものや法律やルール、枠組みがこのような方向へと舵を切られる可能性が高いと予想できます。
このような予測をあらかじめ立てておけば、例えば政府で先行公表された法律が何年度から始まるというとき、対応に焦る必要がなくなります。
例えば、最近でいえば働き方改革なども、発表されてから後手に回って対応するのではなく最初から先取りして対応しておけば、よりスムーズに順応できたでしょう。
人材確保という観点からも、働き方改革が推進されてから残業時間の削減や有給休暇の取得というところに取り組むよりも、少し前から取り組んでおけば人材確保に関する優位性につながっていく可能性もあります。
今回、経済産業省からこの未来人材ビジョンが発表されていることをヒントに、ここから先取りして企業としては何をすべきなのかということを考えていくことが非常に大切になってくるでしょう。
未来人材ビジョンでは、雇用や人材育成のあり方が大きな転換点にあり、国を挙げて変化する必要があることを示しています。
実現に向けてどのようになっていくかは、これから議論が深まっていくところです。
経済産業省が発表したことを全てできるかどうかはわかりません。しかし、その方向に舵を取っていきたいということはおそらく提言され続けていくでしょう。
これは企業だけではなく、そこで働いている人達にも変化が求められています。今働いている人たちや2050年にも働いている人たちもそうですし、2050年に教育へ携わっている人たちもそうかもしれません。
未来人材ビジョンは、実は多くの方々に関係している内容なのですが、まだあまり注目されていません。しかし、早い段階から情報をピックアップして対応していくことが、将来の企業における人材確保や人材活用の上で非常に大切になるでしょう。
この未来人材ビジョンを、今回はかなり省略してご紹介しました。実際は、pdfファイルで多くの資料とともに提示されています。
このような提言は、唐突になされたわけではありません。諸外国と比較したデータや過去の事例との経年比較、専門家の予測など様々な情報をまとめた上での結論として、未来人材ビジョンは提言されています。
提言だけを見ると、本当にそうなのか疑問を持たれる方もおられるでしょう。ぜひ、元になったデータも一緒にご覧ください。私自身もデータを見て、確かに今のままではいけないという危機感を覚えました。
未来人材ビジョンは、こちらのサイトの関連資料からpdfファイルをダウンロードできるので、ぜひ全文をご覧いただければと思います。
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001.html
※PDFファイルですのでダウンロード環境にはご注意ください。