本記事の要約
前編では、關口さんが所属する「良い会社プロジェクト」が考える良い会社の定義や考え方をお話しいただきました。
「良い会社」について話を聞きながら、インタビュアーの井上から「良い会社って宗教っぽくないですか?」という質問。關口さんも「宗教だと思います」というこたえ。
さて、後編では宗教っぽい会社の具体的な事例と、仮に宗教っぽくても働く人たちが幸せなことが重要という關口さんの考えをお聞きします。
ゲスト紹介
關口 洸介
2006年に株式会社パソナ(現在の人材紹介事業本部)入社し、エンジニアの採用・転職支援に携わる。転職を支援した方の再就職をきっかけに、景気の影響に左右されず好業績を続ける「良い会社」を増やすため、2010年より「良い会社プロジェクト」に参画。社員の働く幸せと好業績を両立する「良い会社」の調査・研究に従事、『理想の会社をつくるたった7つの方法』(あさ出版)の取材・執筆協力を担当。
インタビュアー
井上 洋市朗
株式会社カイラボ 代表取締役
2008年 株式会社日本能率協会コンサルティングへ入社し、大手企業の業務改善などに従事。その後、社会人教育のベンチャー企業などを経て2012年3月に株式会社カイラボを設立。
2013年に新卒入社後3年以内で会社を辞めた早期離職者100人へのインタビューをまとめた「早期離職白書2013」を発行。
早期離職の実態と対策に関するコンサルティングのほか、セミナーや研修を全国で実施。現在は高校生や大学生向けのキャリア教育の授業にも登壇し、年間100件以上のセミナーや研修などを行っている。
価値観やポリシーを大切にする経営と働き方が大切
關口 さっきの宗教問題についてですが、日本の中で「宗教」という言葉を使われる時って、比較的ネガティブな印象があると思います。でも、グローバルで考えると、宗教をもっている・信仰心を持っている人の方が圧倒的大多数であって、日本は逆に特異なのかな、という気がしています。
日本の中で宗教とはなにかというところが深く議論されることってないのだと思います。
例えば、私はもともとバリバリの理系なので、若い頃は科学的に証明できないものは信じなかったですが、いくつかのエピソードやいろんな方のお話があって、科学だから正しいと思っている思想って逆に危険だなと思うようになりました。
井上 科学至上主義みたいな?
關口 はい。なので、私は科学的アプローチとか、批判的精神というアプローチは好きなんですが「これが科学だ」とあたかも正しいかのように展開されるのは本当の意味で科学的ではないという感覚です。
宗教と聞くと拒否反応を抱く方が非常に多いですが、そうではないと思うんです。宗教とは何かというと、信仰心や価値観、自分が信じるポリシーみたいなニュアンスで受け止めていただくといいのかなと思っています。
井上 「働く人達のポリシーと会社のポリシーというものがうまく合致していればそこにいる人達は幸せだよね。しかも会社としても成果を出しているっていうのは非常に大事だよね」ということでしょうか?
關口 働く人たちのポリシーについて、性格の不一致というか、会社が考えるものと個人が考える価値観が真逆だったら不幸せですから。
「良い会社」と「早期離職しない会社」の共通点
井上 私たちカイラボは「早期離職対策」「社員定着率向上」と言っているのですが、良い会社は基本的に人が辞めないですか?
關口 実際に辞める人はゼロにはならないかもしれないですけど、早期離職白書の中でも定義されているように、ネガティブ離職とポジティブ離職というのがあると思います。
良い会社はネガティブ離職を極力なくすような取り組みをしている会社がほとんどかなと思います。
坂本先生の言葉を借りれば「転職的離職」という表現です。「この会社に不満があって辞めます」とか、「もっといい場所があるので辞めます」という転職的離職が少ないのが良い会社だと思います。
井上 カイラボでは早期離職の三大要因を「存在承認」「貢献実感」「成長予感」と言っています。
ちょっと話は戻りますが、存在承認について、良い会社は「あなたはここにいていいんだよ。この会社で頑張ってるね」っていう賞賛の文化があると思っています。
また、貢献実感についても、社員の方々が「社内のメンバーに私は貢献できている」とか「お客様に貢献できている」という気持ちは強いのではないでしょうか。
良い会社にいて社員は成長するか?
井上 一方で、良い会社にいると仕事を通じた成長感や「他の会社にいっても自分は通用する」という気持ちがもてるのかどうかは少し不安なのですが、關口さんから見てどうですか?
關口 そうですね。人の役にたっている、という実感とか、人に喜ばれている、という実感だけでなく、自分自身が成長を実感できているか、という項目もサーベイの中に盛り込んでいます。
そのスコアが高い会社というのは、様々な職種においても、貢献実感を持てる仕掛けをしています。
これはある有名な飲食店の事例です。座敷に上がるときにお客様は靴を脱ぎます。その飲食店では、お客様がお手洗いなどで立ち上がった際に靴を揃えて出しなさい、という教育をしているんですね。
なんでそんなことをするかというと、お客様が見てないところで靴を揃えても何も言ってもらえないし、お客様も気づかない。
でもお客様が立ち上がった瞬間にパッと靴を揃えると、「あ、どうも」「ありがとうございます」と絶対フィードバックをくれるんです。それが、仕事を通じてお客様の役に立っているなという実感にもつながります。
ただ単に履物を揃えろというマニュアルじゃなくて、お客様からフィードバックを貰えるように履物を揃えるタイミングまで仕組みとして教育の中に組み込んでいくというお話を聞いた時に、良い会社はそういうところまで考えて、教育やOJTを行っているんだなと実感しました。
良い会社は価値観の合わない人は採用しない
井上 そういう話を聞くと、あまのじゃくな私はどう考えるかというと、「超めんどくさい!」と考えちゃいます(笑)。
だって、ずっとサンダル出しておけばいいじゃないですか。しかも飲食店は忙しいんだから、従業員のオペレーションは極力減らしたほうがいいじゃないですか。私みたいな人にとって、その会社はいい会社なんですかね?
關口 井上さんとその会社の価値観が合っていないですね(笑)
井上 (笑)そういう人は採らないようにした方がいいということですね。
關口 そうです。
会社のポリシー・価値観も、人に貢献できる喜びも、経営者自体が現体験をもっていることが大切です。
それが、社員の人間的な成長、はたまた人生においてプラスになるという価値観です。先程の履物については仕事の中で強制に近いかたちかもしれないですけど、自分自身も望んで入社するのであれば、価値観があっている状態ですよね。「それって効率悪いじゃん」とか「非生産的だよね」っていう方が入社すると、早期離職になってしまいますね(笑)その仕事が理念・価値観に沿って「どうあるべきか?」という建設的な議論ができる職場であることが重要ですね。
井上 そこはまさに重要なポイントだと思います。どんな経営者の方であっても、どんなブラック企業でも、良い会社にしたいと思っている経営者の方がほとんどだと思うんですよ。
ただ、価値観が従業員とマッチしないから、ブラック企業って言われてしまう。うまく社員に伝わっていないことが非常に大きな原因だと思います。
關口さんへお聞きしたいのは、良い会社を目指したい時に何をしたらいいんですか?
良い会社をつくるために企業が取り組むべきこと
關口 経営・人事の立場から考えると、社員の声に耳を傾けることが第一です。なので、まずは社員意識調査をやってください、というのが(笑)営業トークです。
井上さんの仰るとおり、自分の会社を悪くしようと思っている人はいなくて、自分のやることで世の中に良い影響を与えたい、一緒に働いている仲間がハッピーになれるようにって、経営者の方は思っています。
ただ、社員とのコミュニケーションがうまくいかずに、それが社員に悪い印象として捉えられているケースも多いと思うので、まず社員の声に耳を傾けるというのは第一歩です。
井上 「良い会社サーベイ」を実施したあとの報告書では「こんな対策するといいですよ」というアドバイスしてくれるんですか?
關口 はい。世の中には多くの社員意識調査・社員満足度調査がある中で、私達が目指していることがあります。
それは、「良い会社」の共通点を定量的に把握し、良い会社実現のために示唆になるような指標を目指すことです。
世の中の平均と比較して高かった、低かった、自社の中で去年よりも良かった、悪かった、というのも大事ですが、社員が幸せで好業績を持続している会社と比較した時に何が足りないんだろうかというのを把握していただくためのツールとして活用して欲しいと思っています。
ある会社だと経営理念のところが足りなかったという気付きになるかもしれないですし、労働時間が課題になるケースもあります。 業種・業態によっても大きく変わりますが、経営陣や人事にフィードバックすることで社員が感じていることと経営が目指していることのギャップを埋めるためのアクションにつなげていただく内容です。
良い会社づくりも早期離職対策も経営陣・管理職が重要
井上 「若い社員が辞めちゃうんです」という話になると「今どきの若い人はストレス耐性がない」と。だから「ストレス耐性が高いやつを入れよう」「ストレス耐性を図れるサーベイを入れよう」という方向にいく企業が多くなりますが、個人的には違うと思っています。
企業に関わる人たちとして経営者、管理職、人事、若手社員など様々ですが、良い会社を目指すにはどの人たちがキーポイントになってきますか?
關口 会社の規模によって差はあると思いますが、経営トップの採用に対する思い、力のかけ方・時間の使い方は非常に重要かなと思います。
経営者が採用にどれだけコミットしているのかは重要です。
井上 さきほどの登場人物でいうと「経営陣」がカギを握っているんじゃないかということですね。
早期離職という観点だと、経営陣はもちろんですが、現場の部長や課長といった管理職がかなり影響力大きいなと思っています。現場の管理職の方々の影響力や動き方で会社が変わったという動きって何かありますか?
關口 まさにさっき井上さんが言っていた上司・管理職の影響によって、組織別のスコアにばらつきが出ます。
「上司を信頼しているか」という項目であれば、部署ごとに上司も人も違いますから、バラつきが出るのも分かるのですが、「会社の理念を知っているか」とか「会社の理念を実践しているか」「会社の方針・方向性が経営陣の間で一致しているか」という設問でスコアが高い組織もあれば、低い組織もある。それはミドルマネージャーが経営陣の経営方針をどう噛み砕いて現場に伝えているかという力量によって差が出てくるものだと思っています。
なので、「上はああ言ってるけどさ、実際現場はこうなんだからしょうがないよな」とか「上はこう言ってるけどやっとけ」「上のあいつは何もわかってないよな」ということを上司が話していたら、現場で働いている人は「この会社大丈夫なのかな」っていう不安につながったりするかもしれません。中間管理職のマネジメントの力量というのはポイントだと思います。
井上 サーベイのスコアが高い部署は、やはり営業成績や売上なども高い傾向があったりするのでしょうか?
関口 部署別の成績とサーベイのスコアとの関係性も結果として出ています。
井上 ある程度関係はあるということなんですね?
関口 そうですね。これもある特定の業種になってしまうんですけれども、営業系の部署で見たときにはマネジメントの評判がいい、周りから「あのマネージャーは優秀である」と評判のいいところは業績もいいし、そこで働く社員の士気も高い気がします。
井上 離職率に関しても管理職のあり方を結構重視しているんですが、共通点もありそうですね。例えば、管理職の人も「上は全然分かってないからさ」って発言は悪気なく言っている可能性があるんじゃないかなと思っています。経営陣の判断の背景が十分に社員に伝わっていないと不満が出ます。その不満をおさえてもらうためのやり方として「上はああ言ってるけどあの人達現場のこと分かってないから、俺がちゃんと伝えておくからまずはこのやり方でやってね」っていう言い方を良かれと思ってやっている管理職の方って結構いると思うんですよ。それはやっぱりやめておいた方がいいと思います。
井上 もっとお話しを聞きたいのですが、あっという前に時間が来てしまいました。關口さん、本日はありがとうございました。
良い会社でも早期離職対策でも共通するキーワードとして、存在承認、貢献実感、理念、経営者、管理職などが出てきました。好業績と社員がイキイキ働いている状態の両立を実現する上での参考となれば幸いです。