早期離職対策や人材育成策の一環としてOJT担当者向け研修を導入する企業は少なくありません。具体的なデータがあるわけではありませんが、私の感覚ではこの1~2年でOJT担当者向けの研修を実施する企業は増えてきているような気がします。
世の中には研修の会社がたくさんあるので、OJT担当者向け研修のプログラムも数多くあります。私たちカイラボでもOJT担当者向け研修を提供しています。様々な企業・団体のみなさんから様々なオーダーをいただく中で、過去に実施したOJT担当者向け研修の効果があまり上がらなかったというケースも聞きます。
そこで、経営者や人事の方など、OJT担当者向け研修を外部にオーダーしたり、自社内で企画したりする立場のみなさんが押さえておくべき5つのポイントをご紹介しています。
実際のOJT計画書や育成計画書などを使用する
研修会社によっては、すでにOJT担当者向け研修のパッケージが完全に出来上がっていて、カスタマイズはほとんどできない、またはカスタマイズすると費用がかかるというケースもあります。
一般論としてのOJT担当者のあり方を学ぶことができ、講師も多くの現場で研修を担当している方であれば他社の実情なども知れるのはメリットです。一方で、一般論になりすぎて企業個別の事情に対応できない場合もあります。研修の中で使用する育成計画書などは自社のフォーマットをつかうようにしてもらうようにした方がいいでしょう。研修でつかったフォーマットと自社のフォーマットが違うと、結局研修で学んだことを実践できないということにもなりかねません。
現実にあり得るリアルなシミュレーションを用意する
研修の中では新入社員をほめる、しかる、評価のフィードバックをするなどの場面を想定してシミュレーションを行うケースもあります。その際のケース設定も自社では起こらないような状況ではなく、思わず受講者が「あるある、こういうパターン!」と言ってしまうようなリアルなシミュレーションを用意しましょう。
リアルなシミュレーションは研修会社に丸投げしていては難しいので、研修の事務局になる方や過去のOJT担当者の方なども巻き込んでの企画が重要になります。過去にある学習塾のオーナー向けに行った研修では、売上や塾運営のKPI設定、新入社員の受答えなどかなり細かく作り込んだところ、シミュレーションなのにオーナー役が新入社員役に本気で怒りはじめるということもありました。リアルなつくり込みは受講者の研修への本気度を高めることにもつながります。
OJT担当者の中には不安や不満を持っていることを前提にする
OJT担当になったことを名誉に思っている人もいれば、不満に思っている人もいます。また、初めての人はかなりの不安を抱えています。今までやったことのなかった業務を任されるのですから、不安があるのは当然です。大切なのは不安や不満はあるものだという前提で研修を設計し、講師も配慮する必要があるということです。例えば、カイラボの研修では前半部分で「OJT担当者をやるうえで不安に思っていること」を共有する場を設けることがあります。また、過去にOJT担当をやった方を呼んで「こんなことが不安で、こんなことに悩んで、どうやって克服して、今はそのとき担当した新入社員がどうなっているのか」などを語っていただくのも効果的だと思います。
決まったひとつのこたえや絶対の解決策はないことを伝える
人を育てることにおいて決まった一つのこたえがないのは当たり前なのですが、研修を受講する方の中には「新入社員育成の必勝法」を教えてもらおうと思って参加している人もいます。当たり前ですが、そんなものはありません。ある場面では正解と思われる行動が、別の場面ではNGになることだってあり得ます。当たり前のことなんですが、研修の中でそのことを伝えることは忘れないでください。
絶対の解決策はないことをしっかりと伝えないと「研修でこうしろと言われたからやったのにうまくいかなかった」という人が出てきてしまう可能性もあります。OJT担当者に大切なのは、研修で学んだことを自分が担当する新入社員にはどう活かせるかを考えることです。
やりっぱなしではなく、定期的なフィードバックを行い、現場社員とも連携する
研修には限界があります。研修の効果が長続きしないというのは、様々な研究結果でも明らかになっています。研修でやったことを実務で活用するには、定期的なフィードバックが必要です。研修設計の段階から複数回に分けて実施できればいいのですが、そうすると費用もかかります。一度の研修の効果を持続させるためには経営者や人事など研修を企画した方々が中心となってOJT担当者への定期面談を実施するなどが重要です。やりっぱなしではなかなかうまくいきません。
5つのポイントまとめ
ここまでご紹介したポイントを改めてまとめると以下の5つです。まずは5つの観点で、現状できているか、検討項目に入っていたかを見直していただけるといいと思います。
・実際のOJT計画書や育成計画書などを使用する
・現実にあり得るリアルなシミュレーションを用意する
・OJT担当者の中には不安や不満を持っていることを前提にする
・決まったひとつのこたえや絶対の解決策はないことを伝える
・やりっぱなしではなく、定期的なフィードバックや人事担当者との連携をとる
新入社員にとってはじめてのOJT担当者は一生のうちで1人だけ
学校を卒業してはじめての就職先での初めてのOJT担当者は人生で一人だけです。OJT担当者はもしかしたら、その人の一生を左右する可能性もあるのです。ということは、どの新入社員にどのOJT担当を当てるかを考える人事の方などにも同じだけの責任があるということです。採用と新人研修の部分は一生懸命やっても、OJTに入るとほとんどサポートができないというケースもあります。業務量的になかなか手が回らないこともありますが、OJTのあり方を少し見直すだけでも、社員の成長スピードや離職率が改善する可能性は大いにあります。